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モノ2020.11.27

ヘルスケアリーダーシップ 白書シリーズエビデンスベースド・デザインに基づきより良い病院を建設するためのビジネスケース(4)

エビデンス・ベースド・デザインに基づきより良い病院を建設するためのビジネスケース(3)はこちら

質問からアクションへ
エビデンス・ベースド・デザイン特長についてビジネスケースを評価するための枠組み

6番目の質問に実際に答えるには、病院は、提案されているエビデンス・ベースド・デザイン特長を批判的に評価し、どれが病院運営に最も大きな影響を及ぼすのか判断する必要があります。投資収益率(ROI)の枠組みを以下に示します。これは具体的なエビデンス・ベースド・デザインに基づく改革内容を評価する際に考慮すべきビジネスケースの課題を説明しています。
各組織は、最新のエビデンスを反映させ、デザインイノベーションのコスト・収入への影響について最善の判断を行わなければなりません。また、プロジェクトに含まれるエビデンス・ベースド・デザイン特長や、安全・品質目標を達成するために計画される臨床面・運営面の介入も理解する必要があります。
すべての介入について初期コストおよびライフサイクルのコスト増分および節減を示し、介入コストと、コスト回避に関連する収入増加とを比較することができるようにします。
院内感染減少という目標を例に取ります。この枠組みでは、問題の範囲と達成したい改善目標を明確にするための運用情報が必要です。別の種類のエビデンス・ベースド・デザインイノベーションでも、この枠組みは同様に機能するはずです。このROI枠組みは5つのステップから成り、各表にそれぞれの病院データを記入することになります。

ステップ1 問題範囲と改善機会を確認する
学際的リーダーチームを発足させ、患者、家族、スタッフ、病院規模、最終収益にまで及ぶ測定可能な安全品質改善を達成する説得力ある目標ビジョンを作ることから始めてください。
目標に基づき、現在の慣行を評価し、それぞれについてベースラインを作成してください。例えば、現在の感染率、移送率、離職率、病院全体と病棟別の患者転倒率を確認してください。そしてこれらのアウトカムに関連するベースライン運営コストを確認してください。
測定可能な施設利用者満足度改善目標を設定してください。例えば、院内感染をXからYに減少させること、患者満足度をAからBに改善すること、働く人の腰痛症をCからDに減少すること、患者移送をEからFに減少することを目標にします。これらの測定可能な改善目標は、主要なステークホルダー全員により広く合意され、事実上通知されていなければなりません。このプロセスには、主だったスタッフが参加し、積極的に賛成していなければなりません。成功のためには、変化を支持するという組織文化の醸成が必須です。
例えば、院内感染(HAI)の場合、以下のデータを収集し、表3を作成することになります。

  • 前年の入院数合計を確認する(平均ベースラインあるいはトレンドを把握するために複数年のデータを収集してもよいでしょう)
  • 入院数のうち、HAI数を確認する1
  • 特定されたHAI数のうち、医療保険あるいは病院方針により償還されない患者数を確認する
  • HAIが認められた患者、HAIが認められなかった患者の入院あたりの平均病院経費を確認する。希望する場合、償還なしのケースを別々に計算する
  • 改善目標を確認する。例えばHAI数を年間Xに減少するなど

ステップ2 改善コストを見積もる
目標を達成するためのコストを見積もるには、目標達成に使用する臨床面・運営面の戦略のみならず、具体的なエビデンス・ベースド・デザインの戦略を確認し、関連する初期コスト、ライフサイクルコストを割り出す必要があります(表4)。経営陣、医療スタッフ、理事会が建築士と協力し、新しいプロジェクトのビジョンを支持できるコスト効率の良いエビデンス・ベースド・デザイン介入がどれか決定しなければなりません。
目標が院内感染を減らすことなら、分析は次のようなものになります。
エビデンス・ベースド・デザイン介入の例です。

  • 100%個室とする
  • 必ず患者病室にスタッフ専用の手洗いシンクを設け、シンクは見た目ではっきりわかり、使用可能とする

表3 問題範囲と改善機会

1.HAI患者を確認するためのガイドラインはPennsylvania Health Care Cost Containment Councilレポートのテクニカル項目を参照ください。サイトはhttp://www.phc4.org/reports/hai/

表4 改善コストまとめ

  • 患者病室の複数箇所にアルコールベースハンドジェル除菌デバイスを用意する。例えば患者ベッドの片側、患者病室のファミリースペース、患者バスルームなど。
  • 換気システムにHEPAフィルタを設置する

以下は臨床面・運営面の戦略例です。

  • スタッフ、患者、ビジター教育により、組織としてHAI削減を患者安全性の優先事項とする
  • 多剤耐性菌を持つ患者を積極的に確認していく
  • 多剤耐性菌患者全員に接触・設備注意措置を適用する
  • 環境清掃計画では、多剤耐性菌が確認されている患者のための強化清掃スケジュールに患者周りのすべての表面、頻繁に触る表面を必ず含める

ステップ3 コスト回避による収入改善
エビデンス・ベースド・デザイン戦略を使用する場合の影響をすべて理解するには、経営陣と医療リーダーは、これらの改善による財政面の影響を、理事会が検討、承認する病院の年間資金、運営予算に反映しなければなりません。すなわち、目標とするアウトカムを得るための変更の結果として毎年発生するコストおよびコスト節減を精査する必要があります(表5)。
再び院内感染の例を挙げます。
HAI削減に伴う潜在的節約額を確認してください。ステップ1で計算した数字を使って、HAI目標が達成された場合に回避できる年間コストを確認してください。ベースラインを求めるためにHAIの平均数を計算してもよいですし、前年の数字を使うこともできます。病院センサスが大きく変化した場合、絶対数でなくHAI率を選ぶこともできます。

表5 コスト回避による収入改善

HAIが減少すれば追加的定量可能収入改善が見込めるかもしれません。

  • 収容力増加に伴う入院増。HAI患者数を減らし、それに伴い入院期間を短縮できれば、新たに患者を受け入れることができ、収入も増加します。
  • 特定のHAIに対するCMS償還なしの回避。先に述べたように、多くはHAIですが、増加する病院関連の患者傷害事象について、CMSはもはや病院に償還することは今後なくなります。
  • 訴訟・和解に関するコストの削減。HAI患者被害者のHAI関連訴訟・和解コストは削減できます。
  • 株価改善。患者ケアの品質・安全を改善し、スタッフの継続率、満足度、安全性、効率を改善し、最終的には収益を上げるようなエビデンス・ベースド・デザインを採用する機関では、病院の財務戦略、信用格付け、将来のプロジェクト資本調達能力を改善できます(Houston, et al. 2007)。

ステップ4 ROI(投資対効果)を計算する
ステップ3で確認した年間コスト回避総額とステップ2の介入計画の初期コスト総額を比較して、病院のライフサイクルに沿って中間地点の最大節減額を確認してください。2年目から5年目のコストについては、各年で年間コストと回避コストを同額とするか、あるいはインフレ率を加味してコストを算定できます(表6)。

表6

ステップ5 組織にビジネスケースを当てはめる
以上のステップに沿ってエビデンス・ベースド・デザインのビジネスケースを作成することができますが、それだけでは十分でありません。成功するには、リーダーチームがそれ以外の重要事項を実行しなければなりません。

  • エビデンス・ベースド・デザインを理解し経験を積んでいる信頼できる建築士を選択してください。その建築士と協力して、初期コスト以後の財政的可能解決法を探ります。
  • 業績改善目標および進捗状況を内部すべての該当ステークホルダーに通知してください。
  • 業績改善目標および進捗状況を外部へ向けて通知してください。市場での差別化を図りマーケットシェアを増すことができるように世間一般の注意を惹き評価を高めます。
  • ヘルスケアおよびデザイン業界全体と、学んだ教訓を共有し、結果(財政面の影響)を公表してください。このことにより、エビデンス・ベースド・デザインの財政面・臨床面の影響に関する必要知識を広めることになります。

(エビデンス・ベースド・デザインを成功させるためにリーダーチームが取るべきステップについてさらに詳しく知りたい場合は、Zimring, Augenbroe, Malone, and Sadlerを参照ください。)

結論
病院リーダー、理事会は新しい現実に直面しています。もはや、感染や転倒などの防止可能な患者の院内事象、スタッフの傷害、ミス増加の原因となりうる患者の不必要な院内移送を容認したり、患者や家族の心配やストレスを増加させる騒音や困った環境を放置したりすることはできません。活用できるあらゆる合理的な品質改善テクニックを効果的に駆使しなければなりません。効果を最大限上げるには、テクニックを駆使するにあたっても、一元的に実施した場合に最善の結果が得られるような一連の戦術が必ずといってよいほど必要です。
リーダーは、優れたデザインの癒しの環境を構築することと、患者、家族、スタッフのためのヘルスケアの安全性と品質を改善することが明らかに関係することを理解し、そして実現のための説得力あるビジネスケースについて理解しなければなりません。人々が働き患者がケアを受ける物理的環境は、数々の防止可能な院内事象に対処するための不可欠な要素の一つです。
品質に応じて病院報酬を決め、病院が起こした傷害(感染、転倒など)についての支払いは拒否するという新しい成果報酬論はこのビジネスケースを一層後押しします。不要な傷害に対するコストが増加する一方で、世間一般や雇用者の期待は増加しています。ミス分を請求しない、比較可能な患者満足度スコアを公開報告する慣行が現れ、ビジネスケースの収入面の重要性が増しています。メディケアは、償還・透明性ある公開報告要求の多くを推進していて、病院リーダーは、メディケイドや民間医療保険会社が同一あるいは同様の慣行をとると考えるべきです。
経営および信任義務の一環として、病院リーダー、理事会は、すべてのプログラムにコスト効率の良いエビデンス・ベースド・デザイン介入を含めなければなりません。さもなければ、ますます競合し透明化が進む環境において経済状況が悪化するリスクを負うことになります。成功すれば、エビデンス・ベースド・デザインの賢明なる選択により、患者の安全性と質は改善し、労働力の雇用と定着を増し、複数年にわたりROIは大幅に改善されます。
エビデンス・ベースド・デザイン介入の効果は、同時に実施すべき他の重要な実証済みプロセス改善と切り離して得られるものではありません。2004年、Institute for Healthcare Improvement(IHI)は10万人の命のキャンペーンを展開しました。米国ヘルスケア現場の罹病、死亡を大幅に減少させる全国規模の取り組みでした。この成功を受けて、IHIは2007年末には500万人の命のキャンペーンを展開しました。目的は、その後の2年間、500万人の医療傷害被害者を保護するものでした。IHIの2回のキャンペーンからわかったことは、有効な変化をもたらすためには複数の改善策をまとめて実施する必要があるということでした。要は、ここで説明する環境デザインイノベーションは安全性と品質を最適に改善する基本であるということです。
病院リーダーが建設プロジェクトを実行するとき、以上に述べた継続的運営費節減は分析に絶対欠かせないのです。病院理事会、経営陣はともに、新しいレベルの環境卓越性・効率性に責任が持てなければなりません。
新病院建設あるいは大規模リノベーションは、多くの場合、理事会にとっては先例のない大きな財政的決断になります。また投資効果を最大化するという目的のもと、組織全体の文化やプロセスを変革する特別な機会になります。(文化的変化と施設デザインについて詳しくは、“Culture Change and Facility Design: A Model for Joint Optimization” by D. Kirk Hamilton, Robin Diane Orr, and W. Ellen Raboinを参照ください。)患者が病院でケアを受けるのが、たとえ1時間、1日、1週間、1年であっても、病院リーダーは最善の癒しの環境の中で患者がケアを受けられることを保証する機会を得て、同時にまた、その義務を有するのです。


著者経歴

Blair L. Sadler, JD
Blair L. SadlerはInstitute for Healthcare Improvementのシニアフェロー、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部、経営学部の教職員です。1980年7月から2006年7月までサンディエゴRady Children’s Hospitalの社長兼CEOを務めました。氏のリーダーシップのもと、Rady Children’s Hospitalは、臨床の道を開拓した功績によりErnest A. Codman賞の栄誉に浴した米国最初の小児病院となりました。2005年カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部卒業式では、ヘルスケア品質改革と病院・大学医療教育の意味についてスピーチを行いました。広く病院理事会に対して、患者の安全と質に対する病院の新しい役割について講演しています。

Jennifer R. Dubose, MS
Jenifer R. Duboseはジョージア工科大学建築学部のリサーチアソシエートで、プロジェクト開発・運営を担当しています。研究対象は、ヘルスケア施設プロジェクトのエビデンス・ベースド・デザインです。エビデンス・ベースド・デザインのビジネスケース作成を助け、このテーマについての困難な最新文献レビューに協力しました。ともに2008年発表されています。さらに、持続可能施設、組織の持続可能性、温室効果ガス排出量算定に関する経歴を持っています。LEED認定プロフェッショナル、ジョージア工科大学の公共政策学修士。

Eileen B. Malone, RN, MSN
Eileen B. Maloneはバージニア州アレキサンドリアのMercury Healthcare Consulting, LLCのシニアパートナーです。合衆国陸軍大佐を退官、病院コマンダー(CEO)、陸軍医療部のチーフインフォメーションオフィサー(CIO)、その他多くの臨床、運営、施設プロジェクトリーダーを務めました。現在は、プランナー、デザイナー、組織リーダーと相談しながらミリタリーヘルスシステムを支援しています。60億ドル規模ポートフォリオの施設ライフサイクルでエビデンス・ベースド・デザインを使用し、患者とスタッフのアウトカムを改善し、最終収益を改善し、エビデンス・ベースド・デザイン研究推進に貢献しています。

Craig M. Zimring, PhD
Craig Zimringはジョージア州アトランタのジョージア工科大学の建築学教授、環境心理学者です。研究の中心は、物理的環境と人間の満足度、健康、業績、行動との関係理解です。Robert Wood Johnson Foundation’s Building Bridgesプログラム、National Research Council’s Board on Infrastructure and the Constructed Environment、Environmental Design Research Associationなどを含め、機関の理事・役員を歴任。傑出した研究により10回の受賞経験があります。

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