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ヒト2020.11.19

医療とITを結ぶ!多様で平等なチーム「MIラボ」をつくるコミュニティデザイナーの使命

ビッグデータ解析やAIによる自動診断の目覚ましい発展は、医療とテクノロジーが隣接し合う分野であることを教えてくれます。

しかし実際日本では、医療の現場はITの導入が遅れているとも伺うことがあります。例えば、病院間のコミュニケーションは電話やFAXが主流。電子カルテのクラウド化も他国に比べ慎重な姿勢です。

そこで今回は、医療×ITのオンラインサロン「MIラボ」を展開されてきた大学病院の現役医師である村本さんにお話を伺い、コミュニティデザイナーとして多職種の人々をエンパワーメントする意義を考えてみました。


村本耀一

村本 耀一(むらもと よういち)

高校1年生の時に家族をがんで亡くし、がん治療を行う医師を志す。

現在、がんの放射線治療を専攻。
医師として勤務する傍ら、病院に来る前の人へアプローチする方法を模索し、医療とITをつなぐ オンラインコミュニティ「MIラボ」を設立。医療やスタートアップに関するイベントを主催し計500名以上に参加いただく。
2020年7月に株式会社TenGenを設立し、代表取締役に就任。データサイエンスを医療現場やビジネスに活用する事業を展開する。


医療の現場は効率の良い仕組みをつくるよりも、ひとりひとりの医療者が「頑張って」現場を回すことが重視されていたのだといいます。さらに、安全性や正確性を最優先に考えるため、たとえ二度手間でも2人 体制で確認を行うように、プロセスをしっかりと踏む文化がありました。

しかし、COVID-19が蔓延する中、全国の病院では「コロナ対策チーム」を立ち上げるなど、誰かが欠けても運用でカバーする方法を採用し始めました。これまで通り質を保ったまま、いかに医療者の負担を減らしていくか、そして患者がスムーズに治療を受けられるようにするかが論点となってきたのです。

医療とITを結ぶ

医師や看護師、薬剤師、理学療法士などの医療者と、エンジニアやデザイナーなど非医療者、そして学生が集うコミュニティMIラボは、それぞれがリソースや経験を持ち合って新しい価値を生み出す場です。

最も多い時で80名ほどのメンバーが在籍しており、村本さんがエンジニアの友人とタックを組んで臨んだハッカソンを機に、構想が始まりました。(現在はコロナ感染症の影響で募集を中止しております。)

村本さん

“私は総合大学の医学部に通っていたため、医学生以外の学生と関わる機会も多くありました。そこでエンジニアの友人と共に「医療とITの分野で何が最先端で、どんな課題があるのかを掘り出したい」と始めたのがきっかけで医療系のサービスを立ち上げようと思い、ハッカソンというプログラムの大会へ出場し、優勝しました。その時に、医療者とエンジニアやデザイナー、ライターのように色々なスキルを持った非医療者が掛け合わさることで、今までは自分の力だけでは成し遂げられなかったことができるようになると実感しました。そこから、一対一でつながるよりも、コミュニティの中で、n対nで繋がっていた方がより大きな取り組みになると考え、MIラボを立ち上げたのです。”

ハッカソンにて優勝を勝ち取った

並列で平等な立場でチームをつくる

リーダーシップを発揮して周囲を引っ張る人。あるいはそのリーダーを支える人。コミュニティに集まる人は職種だけではなく、パーソナリティも様々です。ヒエラルキーが色濃く出やすい医療業界の風潮に従えば、医師がもつ発言権はどうしても強くなってしまいがち。しかし、MIラボが目指したのは、メンバーの自主性や視点を尊重する風土でした。

村本さん

“誰が偉いということではなく、平等な立場で意見交換することを意識していました。今までの医療現場では、「医者が一番偉く、その人の指示で看護師や薬剤師が働く」という認識が一般的。しかし、現代に沿っていません。それぞれの職種にしかできないことがある中では、「得意な分野が異なるだけで、並列で公平な立場でチームをつくっている」という意識に変えていくべきです。そのことはコミュニティでも意識していました。”

医療コミュニティデザイナーの使命

コミュニティには目的があり、目的のために集う人々によって形成されます。そのコミュニティをデザインする立場として、村本さんは自身の存在意義について語ります。

村本さん

“例えば入る時に条件をつけるか否かによっても、コミュニティの雰囲気は変わってきます。そういった雰囲気づくりなども含めてコミュニティデザインなのだと思っています。もちろん正解はありません。大事なのは、ゴールと方向を一致させてあげること。MIラボのゴールは「医療にITを導入して、より医療者と患者さんが治療しやすい医療環境をつくる」。それに向かってメンバーの意識や行動の向きを合わせる。みんながバラバラの方向を向いてしまっていると、集まってもむしろ非効率です。”

SHOWROOM株式会社 前田社長をお呼びした講演会イベント

分野を超えて活躍する村本さんは、SNSのフォロワー層も徐々に広がってきていました。そんな中、村本さんをネットで見つけて会いにくる学生もいたそうです。

村本さん

“影響力があるからこそ学生さんに対して選択肢を増やすのはいいけれども、減らすようなことはしたくないと思っていました。もちろん医療者として一本の道に進むことも重要だと思っています。その人ごとに合ったやり方があることを伝えるようにはしています。”

ひとりひとりをエンパワーメントする場

あくまで自主性を重んじるコミュニティの中で、これまで数多くのプロジェクトが生まれてきました。

今でも定期的に開催される歯科のイベント、栄養素の詰まったチョコレートを開発する会社の起業、ラジオや地域活性化のための食堂など…。活動の中で繋がった人同士がMIラボとは関係なく新たに活動を始めるケースもあるのだとか。

MIラボから生まれたプロジェクト「歯スティバル」は新聞に取り上げられた

村本さん

“個人によってコミュニティの中で受けた影響は異なると思います。学校では全員が同じことを習って卒業しますが、有志のコミュニティの場合は、自分が伸ばしたいところを補いながら色々な人と出会って、チャレンジして、経験を積み、さらに自分自身の活動につなげる場になります。ひとりひとりの力になれる、応援する、またはエンパワーメントするようなプラットフォームになることは最初から目指していたので、色々な活動をしている人を見ると嬉しく思います。”

株式会社TenGenの新たな挑戦

コミュニティの活動を通して、村本さん自身、多くのことを学んだそうです。アイディアを社会で実装し、主体性を発揮する。そのために一番近道だったことは、株式会社としての起業でした。

企業のマーケティングリサーチや推薦システムの構築、データベースの整備や管理など、医療系企業のデータ活用を 扱う株式会社TenGenは、ハッカソンを共に勝ち取った友人と、今年の7月に立ち上げたそう。

今年から立ち上げた株式会社TenGenのロゴ

主体性にこだわりながら自身のやりたいことにチャレンジしてきた結果、医師とデータサイエンティスト、2つの顔をもつようになりました。失敗を恐れず、アウトプットによって社会を学べる環境があったこと。ここに村本さんの原点があったのかもしれません。

技術と課題、そこに「社会や医療業界のために、何か挑戦してみたい」と思える好奇心や情熱があれば、今までになかったワクワクするようなプロジェクトが生まれるかもしれません。

主体性を尊重し合える成熟した集団は、未来の医療を今よりもっと面白い形に変えてくれることでしょう。

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