CLOSE

MAGAZINE

HOME > MAGAZINE > みんなが使いたい場所を目指して。病院スタッフ一人ひとりの物語を引き出し実現した共有空間「コモンズ」-後半
コト2020.10.01

みんなが使いたい場所を目指して。病院スタッフ一人ひとりの物語を引き出し実現した共有空間「コモンズ」-後半

前半では、井上理事長と桑原さんへ「パーソナルサクセス室」の目的や、サクセスマップやイベント企画など、実際に取り組んできたことをお聞きしました。後半では共有空間「コモンズ」の目的やプロセス、また今後の展望について詳しく紹介します。

「僕が使いたい」ではない

コモンズは「チーム医療という概念が存在すること自体が逆に問題」との視点から、コミュニケーションが活性化する空間として、構造改革を図る目的でつくられました。

 井上理事長

“医療の分野でスタッフのロイヤリティやエンゲージメントの向上を追究した日本語の書籍や論文はあまり見つからず、手探りで作っていくことになりました。設計士やインテリアデザイナー、アートディレクター、アーティストなど様々な方にお手伝いをいただき、自分が思っていた以上の空間ができました。”

コモンズを0からデザインするにあたり、むつみホスピタルでは独自の手法を用いて空間をプロットしたそうです。

井上理事長

“もし今コモンズの運用が上手くいっているのであれば、それはマーケティング的な視点、要するに従業員一人一人がどういった想いでこの場所にいるのかを聞く機会をつくれたためだと思います。ボトムアップで個々が職場に求めているものについて情報収集ができたり、一人一人の想いやニーズ、どのような人生があって今ここにいるのか、どういう思いで仕事をしているかといったことを伝えてもらいました。”

スペースや家具は、そこに集まる20~30名の個人名前を全て実際に構成して家具の上に置き、数やデザインをスタッフの個性も含めて全て考えたそうです。

ペルソナからシュミレーションしてデザインされたひな壇

採用で求める人材像を検討するために5年ほど前から作り始めたペルソナを基に、「その人がむつみホスピタルへ就職してどういう経験を積んで成長するか」というストーリーをイメージしたのです。

ペルソナを作成するにあたり、スタッフにアンケートをとり、むつみホスピタルにいる理由や大変だったこと、それをどうやって乗り越えたのかという設問から、各々のストーリーを紐解きました。

100を超えるストーリーとヒアリングシート

これらのストーリーはひとつのムービーとして表現し、スタッフが一丸とならなければいけない時や採用時に上映するのだそうです。

コモンズ完成までのプロセスについて、井上理事長は振り返ります。

井上理事長

「僕自身が使いたい」という視点になると、やはり少しずれてしまうのです。「この人と一緒に働きたい」という人物像・ペルソナを作り上げて、その方の採用面接をするところからスタートして、病棟で働いたり、コモンズで多職種と交わったり、地域にも目を向けられたり。そして、困難に直面しても、雑談したり、ミーティングをしたりする中で成長していく。そのような、ペルソナの物語にふさわしいと思える空間を作っていきました。”

コモンズの効果と今後

実際にコモンズを運用してみて。どんな効果があったのでしょうか。

桑原さん

“コモンズの中でいくつかの少人数の集まりができるので、だいたいどこで何が行われているか活動を把握しやすくなりました。「どんな話をしているのか」は、表情や話し方で分かるようになり、垣根なく他の部署のこともすごく把握しやすいです。

また、小さなことからも相談を投げかけてくれるようになりました。コモンズがなければ全くそのようなコミュニケーションはありませんでした。”

井上理事長

“意識的に人とすれ違うように設計しており、ちょっとした声かけでも積み重なれば効果を実感しています。コミュニケーションをとることがチーム力につながり、法人としての力にもなっています。”

コモンズやパーソナルサクセス室など先進的な取り組みを実施しているむつみホスピタルですが、病院全体の建て替えは全て完了しておらず、二期工事が残っています。

井上理事長

“10年後くらいの着工を目途に今からしっかり構想を練っていきたいと思っています。具体的にはまだハッキリとしていないのですが、医療だけではないなにかを用いて、地域との融合、一体化をよりいっそう目指したいと思っています。食事や運動そしてコミュニケーション、そのような人間の本質的な活動がポイントになると思っています。”

また、発足して半年のパーソナルサクセス室は、来年から本格的に始動する予定。新たな部署の展望について、2人は決意を語ります。

桑原さん

“発足1年目なので、とりあえず小さなことから始めて、一番身近にいるよろず相談所のようになることです。「あの人に言うとどうにかしてくれる」と意識してもらえるように、小さなことでも積み重ねていって信頼をして頂ければ、と思っています。そして、スタッフも患者さんもサクセスマップに夢やゴールを書いていますが、それにみんなが少しでも近づけるように何かしら応援していきたい。 また、PXの勉強も視野に入れています。スタッフも患者さんも、どんな経験をして・どういったことを得ているのか。入院中の体験、看護師や他のスタッフの困難と成長と喜びの関係性などに興味があります。みんなのモチベーションを上げてあげられる存在になりたいですね。

井上理事長

“力を入れたいのは「パーソナルサクセス室」です。専門的な行動分析、患者さんのアンケートなどを活用しながら、経験を可視化し人事評価にもしっかりと反映する仕組みを作りたい。精神医学の専門的な知識も導入しながら実際に職場の仕事と患者さんとの関わりについて「どういう経験をしているのか」をまずはパーソナルサクセス室でしっかり構造化していきます。”

従業員ひとりひとりのもつ想いやニーズ、物語から導かれたコモンズは世界でたったひとつ、むつみホスピタルだけの共有空間。

すれ違う交差点で交わされる挨拶やイベントを通して深める会話は、やがて、自己実現を応援し合えるオンリーワンのチームを創り出す意味があるのではないでしょうか。

「チーム医療」という言葉の矛盾は、本質的な働き方を問うヒントです。チームとして機能するためには、ただ単に機能的な連携ルールを設けてそれに従うのではなく、一人ひとりの自発的な参画姿勢やモチベーションをいかに引き出してエンゲージメントを向上させるか、ということが重要に感じます。 パーソナル(個々の)サクセス(成功)が相乗的に効果を発揮した時、それはチーム全体の大成功となるのでしょう。

© Central Uni Co., Ltd. All Rights Reserved.