ニューオリンズの中心地から車で北西方面へ10分あまり走ったところにあるニューオリンズ大学医療センター(UMC=University Medical Center New Orleans)は、2015年にオープンした大規模病院です。この地域は、「バイオディストリクト」と呼ばれ、近隣にはニューオリンズ在郷軍人医療センター(VA Medical Center New Orleans)もあります。
UMCは、ルイジアナ州立大学医療科学センター、地元の私立トゥーレーン大学医学部との連携によって生まれました。総床面積は150万平方フィート(約14万平米)で、年間の入院患者数1万1736名、病室数446室、手術室22室、スタッフ数2240名を抱える大規模病院です。設計は、NBBJとブリッチ・ネヴァル建築設計事務所(Blitch Knevel Architects)が携わり、エンジニアリングも含めて60人以上のチームで設計が進められました。総工費は7億5400万ドルです。
この病院の計画に際しては、大きな教訓がありました。そもそも新築が必要になったのは、2005年のハリケーン・カトリーナによって元のチャリティー病院の機能が麻痺したことでした。新たな病院を建設するにあたって、第一の目的とされたのは、病院のインフラや治療に関わる重要機能を洪水レベルの上に配置し、災害時にも機能を維持することです。ニューオリンズの建造物が安全と安心を第一の基本に捉えているのと同様、医療施設もそれを踏まえた上での計画が求められたのです。
UMCは、地下レベルを持たず、地上レベルからひとつ上、22フィートレベルの2階以上に機械などのインフラや緊急処置部門、手術室などの重要機能を集中させています。唯一1階レベルに残さざるを得なかったのはがん治療センターで、これは線形加速器の重量のためでした。ガラス壁面も、軍事レベルの衝撃に強いものが選ばれています。
UMCは、大きく分けて4つのエリアから成り立っています。大きなアトリウムを持つロビー部分は全体の中心に位置し、利用者の動線はここから水平、垂直方向へわかりやすく整理することが目標とされました。ロビーの階上には病院の主機能が集約されています。2階の一角には緊急処置部門が配置されています。
その病院棟につながるかたちで、3つの入院病棟があり、さらに外来用クリニック棟が配置されています。
UMCに足を踏み入れて最初に気づくのは、外に面したガラス面が多いことです。燦々とした自然光が取り込まれて内部が明るく、また外部の植栽が目に入ってきます。病院という白い滅菌的な環境よりも、リゾートホテルにいるような穏やかな気持ちを感じることができます。
この落ち着いた雰囲気は、仕上げ素材にもよるものと思われます。壁には落ち着いた色が選ばれ、床もリノリウムのような素材ではなく、カーペットが敷かれているのです。待合室のような場所では、リビングルームのように患者がくつろげる雰囲気を作り、診療室や治療室とは異なった扱いをしています。いたるところにアートが飾られているのも、ここを寒々とした病院の雰囲気とは一線を画した空間に作り上げています。
設計にあたったNBBJによると、病院内のサイン計画は文字や地図によるサインよりも、色や建物の形状によって行き先を指示するような方法をとったといいます。「◯色の廊下をたどっていった先に……」という具合です。3つの入院病棟も色分けされ、入院患者が入り口や病棟を間違うことのないように考えられました。
個々の部門をよく見ると、受付、待合、診療、処置のエリアが明確に分かれており、また患者のプライバシーを尊重しつつ医療提供者の動きやすさを考えたデザインがなされているのがわかります。
また、緊急処置部門では、ボッド(15〜16室で構成)ごとに医療サプライの補給所が設けられ医療提供者の移動を最短にするよう考えられていたり、自然災害などの緊急時には、同じフロアにある別棟の外来クリニックにまで治療室を拡張できたりするなど、様々なレベルで病院の構成が考慮されています。
ハリケーン・カトリーナの体験を経て、災害時も機能し続ける強さを備え、同時に患者にも医療提供者にも最大の心配りと便宜を施した病院の姿がここにあります。