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コト2020.09.14

イベントレポート人生の卒業旅行 ~逝こう 過去と未来を結ぶいのちの旅へ~

現代の日本では、2人にひとりががんに罹患すると言われている。最近は緩和ケアの在り方に焦点を当てたドキュメンタリー番組もよく放送されている。そんな中、これから訪れる多死社会で、歩んできた人生を振り返り、自分の価値観を他者と確かめ合う活動がある。

いつか必ず訪れる「死」を疑似体験することは、生き方や死について自然に語り合い分かち合う新しい文化の醸成につながるだろうか。

これまでに1000人を超える人々の最期を見送ってこられた緩和ケアの認定看護師、河野さんをお迎えし、「人生の卒業旅行」と題したワークショップを開催した。

イベント冒頭、まずはアイスブレイクとして、名前と今の気持ちを発表した。

ワークショップが始まると、まずは「旅の支度」をする。机上には予め4色の付箋と透明のクリアファイルが準備されている。それぞれの付箋には自分にとって大切な「ひと」、大事にしている「もの」や「こと」、そして自分にとって大事な、あるいは思い出深い「場所」を書く。付箋はそれぞれ5枚。この時点で21枚目の正方形には何も記入しないで待つ。「一体何に使うのだろう」と気になるが、河野さんの進行が進む。

河野さん

“今から皆さんは旅に出ます。その際、自分の感情を無理に抑えないでください。また、旅の途中に誰かが思い浮かんだ時は、その人と一緒に旅をしていってください。”

アメリカのホスピスでは教育プログラムとして行われる『死の体験旅行®』

大切なものを書き出し、病を患い死んでいくまでの物語の中で大切にしているものを少しずつ手放しいく、という内容なのだ。

河野さんは、より参加者が自分と主人公を重ねて想像しやすいよう物語のシーンを編集した。

穏やかな朗読が始まると、参加者は目をつむり物語に集中した。

河野さん

“あなたは自分の中で大切にしているものが1つ失われるのを感じます。付箋に書いたものからひとつ選び、クリアファイルへ移してください。”

徐々に失われていく付箋が半分を超えたころ、主人公と自分が深くリンクしている。リアリティのある描写は想像を掻き立て、涙を流す参加者もいた。

河野さん

“旅の中で失った大切な20個は、まだこの世にあることを感じてください。”

旅から帰ってくると、自分の体温や呼吸、五感を通じて「生きている」ことを強く感じる。

意見交換は「旅のおみやげ話」。

最後に残した付箋は何で、やりたいことを何か。母親、父親、親友、あるいは考える時間…。それぞれの参加者がもつ多様な死生観や哲学を知る時間も、深い学びに通じた。

死の疑似体験によって得られることは、自分の命の尊さや価値観の多様性への気づきだと思う。

ワークショップは「死」への悲観視ではなく、残りの人生を悔いなく生き切るための分岐点として、医療者側にとっては患者心理への理解、そして患者・家族側にとっては心の準備につながる点が意義深い。

生を賛美する取り組みが緩和ケアの本質的な価値になり、「死」あるいは緩和ケアの世界を自分ゴトとして身近に感じるきっかけになるのではないだろうか。

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