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コト2020.10.15

医療サービス3つの特殊性と「待つ」のデザイン。 人間中心設計の視点で問う“患者との関係性”。-後半

医療サービスに「情報の非対称性」「技術の不均一性」「便益遅延性」の3つの特異性があることを前半の記事でご紹介しました。消費社会と比較した飯塚先生の着眼点はとても興味深く、「患者と医療従事者の関係性が医療サービスの在り方を変える」という問題提起を導きました。

さて、後半部では、論文執筆の背景やリサーチをする上で飯塚先生が大切にされていることをご紹介します。

「大学病院での待ち時間に対する通院者心理の分析」

飯塚先生は横浜市立大学 コミュニケーションデザインセンターの武部氏との出会いをきっかけに、数年前から医療フィールドの研究を始めました。

特定非営利活動法人HCD-netが主催する「2019年度冬季HCD研究発表会」にて優秀講演賞に選ばれた研究「大学病院での待ち時間に対する通院者心理の分析」は、待ち時間に対する個人的な想いと研究者としての挑戦の重なりから提起されました。

飯塚先生

“もともと病院での時間の過ごし方について、「あの待ち時間って何とかならないのかな」と感じておりました。待ち時間の多さと不快さには慣れず、味わう度に不快さは増していくような感じでした。一方で、大学卒業後は学術分野として医療の方向性にも興味があったので、「医療の研究ができたらな」と内心思っておりました。

ひとりの人間として抱く病院への疑問点と研究者としての密かな想い。HCDの分野の中でユーザビリティやユーザー心理を研究してきていたので、より快適な方向へ身の回りをデザインしたいという気持ちと重なりました。”

この研究では大学病院で診察待ちをする患者の行動を観察し、ペイシェント・ジャーニーマップを作成。待ち時間を「直接的待ち時間」と「感覚的待ち時間」の2つの概念に分類できることに着目しました。立ち入り障壁の高い医療施設で実際に調査を行った貴重な研究です。

2019年度冬季HCD研究発表会」優秀講演賞に選ばれた研究「大学病院での待ち時間に対する通院者心理の分析」
(飯塚重善, 西井正造, 谷本英理子, 中沢大, 小高 明日香, 武部貴則:大学病院来院者の待ち時間における心理分析,2019年度冬季HCD研究発表会,pp.7-14,2019.)
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飯塚先生(左)とHCD-netの篠原理事長(右)

「待つ」をデザインする2つのアプローチ

「待つ」という行為はその過ごし方によって当然印象が変わってきます。そもそも「待ち時間」と捉えるかどうかによって既に意味が変わっているのです。そして、「待つ」のデザインには2つのアプローチがあるといいます。

ひとつは「同じ待ち時間を長く感じるか短く感じるか人の」心理の問題。その心理をポジティブな方向に導く心理による解決です。

もうひとつは「時間をどう有効に使うか」によって待ち時間ではなくなるという可能性。時間の使い方による解決です。

世の中で実践されている事例の多くは、後者のアプローチです。飲食店などで時間が来たらベルで呼んだり、スマートフォンにお知らせを発信したりするなど、時間の使い方に関するソリューションを指します。

飯塚先生

“心理的な解決を導き出すことは私が関わる意味だと考えています。時間の使い方による解決であれば、技術でいくらか対応が可能ですが、人の気持ちはなかなかそうはいきません。”

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ニュートラルな視点と気づきの重要性

患者心理をリサーチする研究ですが、フィールドで飯塚先生はどんなことを心掛けているのでしょうか。

飯塚先生

“調査レベルの研究では、仮説も何もなくニュートラル、あるいはまっさらな状態でありのままを見ることを心掛けてもらい観察してもらいます。物事は見方によって解釈が大きく変わります。”

患者や医療従事者が、いつ・どこで・どんな経験をしているか極めて客観的な視点で俯瞰することが大切。さらに観察に関して、手法よりも結局は「気づき」が大事なのだそう。

飯塚先生

“木からリンゴが落ちた時にニュートンが万有引力を思いつくかというのは、常日頃から物理学のことを考えていたからこそ気が付けるのです。同じ事象を目にした時に、あることに気が付けるかどうかは思考をどう巡らせているか、同じ事象をどう捉えているかという見方、あるいは気づきの違いです。物事を見た時にどう思うか、どう感じるか、そしてどう捉えるか、普段から意識して過ごすことが大事なのではないでしょうか。”

気持ちに訴えかける仕掛けを

 今後は「院内のリサーチ」と「院外の健康促進」の両面に取り組んでいかれるそうです。

飯塚先生

“病院という場所には本来いらないはずの時間ができてしまっていますし、そこにスペースがありますので、時間と場所を有効に活用することで、その時間をただネガティブに過ごすのではなくてよりポジティブな感情を抱かせる時間にしたい。”

入院されている患者は病院にいる間の精神的な状態が病状に影響するとされており、快適な入院生活が効果的な回復には必要になるため、病院は快適な場のデザインに力を入れていくでしょう。

また、飯塚先生は「普段から健康を保つための動きや生活スタイルを築き上げるかをデザインやコミュニケーションによって行動の誘発につなげたい」と今後の展望を想像しています。

飯塚先生

「デザインで人を動かす」というのは10年以前から私の中のポリシーです。「病院に行きたくなったらまずい」「行かないに越したことはない」という考え方もありますよね。だとすれば「病院に行きたくないから頑張ろう」という意識で普段から健康に過ごす考え方も当然あって良いと思います。”

待合スペースから見えるプロジェクションマッピング
撮影場所:独立行政法人 国立病院機構 横浜医療センター

「楽しむ」や「時間を忘れる」ために気持ちへ訴えかける仕掛け。トライアルが楽しみです

医療を提供するのは「人」であり、診断内容や施術結果はこの技量に影響するものです。一方、医療を受ける患者も背景の全く異なる個の人物。

性格やニーズ、専門性やアプローチは様々で、医療サービスの在り方を考える上で、医療従事者と患者の関係性に着目することは必要不可欠です。

「満足度」という評価軸に正解がないことが医療サービスの答えなのかも知れません。

患者経験価値の概念はCustomer Experienceよりも複雑で、デザインの業界からもヘルスケアは注目度の高い領域。

そんな医療のフィールドにおいて、人間中心設計の専門家である飯塚先生の本格的なリサーチが(特定非営利活動法人)HCD-Netにて高く評価されたこと。それは、PX発展を一歩前進させたのではないでしょうか。

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