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コト2021.03.04

幻肢痛当事者を開発の中心に。VRで模索する新しいリハビリの形とは。 -後半

前半部では、コントロールできない幻肢痛の痛みが社会復帰を阻むほどの苦痛を強いること学びました 。

ここからの後半部では、共同開発に参加した当事者のエピソードに触れ 、交流会の意義や今後の展望について考えていきたいと思います 。

医療と工学 、そして当事者をつなぐ橋渡し

お二人の当事者研究で最も重要視されていること、それは 「 臨床の現場で実践可能」なことです。

猪俣さん

“私たちは必ず臨床で使えるものにすることをベースにしています。井上さんも私も、技術者としては医療側のことも相当分かった上でお話をしないと開発は進みません。臨床医や理学療法士の方たちと、当事者の私、それから技術者の井上さん が 横串に全員が解け合うように話し合いながら進めないと、本当に良いものはできないだろうと思います。私たち技術側としてもジェネラルに色々なことを分かっていかなくてはいけないでしょうし、なるべく医療側の人々に歩み寄れるようにしていこうと思っています。”

当事者研究をさらに効果的に行うためには 、医療と当事者の橋渡しとして個々 の立場や背景を理解するスタンスが重要になります。

リハビリテーションは高いモチベーションを維持するためにも 、体力や自己治癒力を要します 。さらに、幻肢痛はコンディションにも左右されるため、 VRだけではなく、日常生活の改善や自分の痛みを理解する知識などのサポートが必要になるそうです。

猪俣さん

“ヘッドマウントディスプレイを装着している時は患者さんがどのような体の使い方や脳の使い方をしているのか見えません 。指示をしても 、VRの中で実際にその通りになっているのかは分かりません。慣れも必要です。人によっては得手・不得手もあります。VRだけが治療方法というわけではなく、やはり複合的に要因が絡んできています。気圧の変化を受けやすい体の人には、「まずは自律神経を整えましょう」というように、包括的にサポートをしてあげなければいけません。だから、VRだけではなく、あらゆる角度からのアプロ ーチが必要になると思います。 医療では埋めきれない部分を身近な立場の人が対処し、管理していかなければいけないと感じます。その役割を私たちができればよいと思っております。

生き様を誇らしく語ってもらえるように

猪俣さん 、井上さんの開発に参画する当事者の方々の中には 、苦労を乗り越えながら成功体験を積み重ねる人が沢山います。

奥様のサポ― トがないと自由に動くことができなかった男性は 、昨年VR治療を体験して元気になった時に 、「もう一度免許を取ってミニク ーパーを買うんだ 、そして妻をドライブに誘うのが夢だ」と言われたそうです。

またある人は、「幻肢痛幻肢痛研究家研究家」という名刺を作り、当事者セラピストとしての活動を関西地区で始めたそう。以前は生活保護を受けて受けていた人でした。日々グループLINEに飛んでくる質問に真摯に答えながら、数名の患者さんの面倒を見ています。

結婚後に怪我をされた男性は、20年以上連れ添う奥様が治療の時も一緒に来られるそうです。VR体験によって痛みが緩和されると、聞こえないほどほど小さくなっていた声が出せるようになりました。奥様は少し涙ぐんで「昔の彼の声です!」と言われたそうです。

猪俣さん

“人間、最後は加齢とともに段々と筋力も衰えて、物忘れも激しくなり、色々なものを失っていきます。残るのは生き様だけになるため、その生き様が誇らしく語れるような人生を送ってもらいたいと思っています。人それぞれ目標は様々であり、その人のこれからの人生感をもう一度楽しく考えられるところまで寄り添いサポートすることが私たちの目標です。

開発だけではなく 、「 当事者同士の交流会 」もまた 、ポジティブなエネルギー を生み出す源流になっているようです。当事者の方々に起こる変化は 、猪俣さんと井上さんご自身にも影響を与えています。

猪俣さん

“最初は「何とかしてください」「助けてください」と受け身で来る患者さんが、リピーターになっていくことで経験者として新しく来られた患者さんに自分の体験や対処法を教えてあげるようになります。 いつの間にか、「助けて欲しい立場」から「助ける立場」に変わるのです。そういった循環が生まれることで、存在意義が生まれてくるのです。痛みに苦しみ屍だった私自身、頼ってもらえたことで自分の存在意義 について「 生きてて良かったな」と思いますし、そういう想いをさせてくれた会 です 。”

井上さん

“これまではずっと大量生産のプロダクションの世界で生きてきたわけですが、 交流会で参加していると、個々人の方に何かできる機会こそ行うべきだと感じます。もう少し広く考えると、そういった社会システムの中だけではなく、ご近所づきあいのように「できることはやってあげる」という風な近しい関係性の活動が大事なのではないか、と考えます 。

簡易版VRの開発と展望

東京を拠点にするお二人の活動は認知が広がり 、全国から問い合わせが寄せられるようになりました 。しかし 、地方から継続的に東京に通うことが 、身体的 または金銭的に困難な人もいます。

そこでお二人は、幻肢痛 に苦しむ人を一人でも多く救うため 、「 在宅用簡易システム 」 の開発に着手しました。

猪俣さん

“VRのツールを医療機器として登録を目指すには 、認可に約5年の歳月がかかります。しかし患者さんたちは、「分かった、期待して待っているよ」とは言えないのです。未来ではなく、今何とかして欲しいのです。そのため 、医療機器にはせず、 自分で自分を治す「自己リハ」のための福祉機器として提供することを目指せば、今すぐにでも全国の人々に届けられるのではないかと感じています。

井上さん

“フルバージョンは機材も多く場所も必要ですが 、簡易版はゴーグル単体だけで事足りるので、ご自宅、あるいは仕事中に痛みが出てきたらゴーグルを少し被って VRを体験することもできます。デバイスの発展に伴い開発を進めました。3月中にストとして数名の患者さんにお渡ししたいと考えています。”

人生や事故の体験 を悲観視していた人も、開発に参画するうちに、ひとり、またひとりと確かな存在意義や誰かを励ますエネルギーをもつようになる。

支え合う文化を築く人間中心の活動は、ヘルスケアの根源にあるヒューマニズムを感じさせます。

技術やスキルは誰かや何かの役に立ち、初めて生かされるもの。

猪俣さん・ 井上さん の当事者研究は、医療と工学、そして当事者の間をつなぐ橋渡しとして、これからのヘルスケアに明るい未来をもたらしてくれるのではないでしょうか 。

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