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コト2022.02.10

すでにある「健康デザイン」を見つけ、枠組みを与えていく。健康デザインセンター・白波瀬丈一郎さんが探求する、新しい「健康」

病気・障害がある人の心身機能の「治療」にとどまらず、健康な人の社会的活動・参加にまで踏み込んだ、新たな病院の形。そんな構想を胸に、現代における病院の再定義に挑んでいるのが、今回話を伺った医師の白波瀬丈一郎さんです。

白波瀬さんは、東京都済生会中央病院の健康デザインセンターのセンター長として、治療のみならず、社会的支援、予防、健康な「場」づくりにも取り組んでいます。前編では、あらゆる人々のよりよい暮らしに資する場所として病院を再構築している白波瀬さんの活動の全体像、またその補助線となったデザイン思考の考え方を紹介しました。

続く後編では、これから白波瀬さんが病院や医療にいかなる変革をもたらそうとしているのか、その未来像に迫っていきます。病院の機能が「治療」にとどまらなくなったとき、どのような病院や医療、そして社会の形が実現するのでしょうか。白波瀬さんのさらなる挑戦の構想を見ていきます。

「領域横断」チームの重要性

前編で詳しく紹介しましたが、白波瀬さんは健康デザインセンターにおいて、病院の機能を病気・障害がある人の心身の機能の「診療」から、さらに拡大させようと取り組んでいます。

こうした新しい形の病院に移行するためには、専門家の集まりで構成される病院に、トランスディシプリナリー(領域横断)のチームを増やしていく必要がある、と白波瀬さんは語ります。

「突拍子もないように聞こえるかもしれませんが、病院をみんなが好き勝手なことを言ったり、寄ってたかって何かしたりできる場にしていきたいと思っています。自身の専門分野にかかわらず、幅広くみんなでアイデアを出し合える集団へと、いかにして変えていくか。病院は本来、クリエイティブなことをやっていて、知的好奇心が満たされる、わくわくする場所なはずなんですよ。みんなが『それ面白いね』『ちょっとやってみない?』とスムーズに言えるような組織に変えていきたい。そうすれば、病院としての機能も高まると思います」

そのためにはまず、どんな些細なことでも健康デザインセンターに相談してもらえるような空気をつくることに専心しているそうです。「僕たち、わりと便利ですよ」「いかようなニーズにも応えますよ」ということを、院内にアピールしていると語ります。

「フィールド研究の考えを借用すると、外から来た“ゲスト”である間は、うまくいかないんです。いかにして集団の内輪、新参者になっていくか、それが取り組むべき第一課題です。そのために、いろんなところに顔を出して、御用聞きをする。そうしながら、現場のニーズが何かを知る。そのうえで、『あの人たちに相談すると得するとか、いいことがある』という空気をつくっていくのです。このヒントをくれたのが、起業コンサルタントであるエルネスト・シロッリの『人を助けたいなら黙って聞こう!』という『TED』の講演です。彼はイタリアの農業技術を、相手のニーズを聞かずにアフリカに持ち込み大失敗し、そこから学んだといいます」

病院で「哲学対話」を?

病院の中に増やしたトランスディシプリナリーのチームで、白波瀬さんはどのような取り組みを実施していきたいのでしょうか? 質問してみると、具体的なアイデアが、次から次へと出てきました。

「まず宗教家の人などに来てもらって、『人が死ぬってどういうことだろう?』と一緒に考える企画をやりたいですね。そうすれば、病気の人だけではなくて健康な人も興味を持ってくれると思うんです。病院では死がたくさん起こっているにもかかわらずタブー視されていますが、うちの病院は死も生きていることの延長線上として、しっかり忘れずに話し合える場所にしていきたい。その延長として、哲学対話や環境教育にも取り組みたいですね。あと、誰でも弾いていいストリートピアノを病院内に置いたり、子ども食堂をやったり」

いずれの取り組みにも、子どもたちを呼びたいと言います。病院を小さい時から馴染みの場所にしておくことで、結果的に医療面でも早期発見や早期治療につながるからです。

さらに病院で働くスタッフの環境もよりよくしていきたい、と白波瀬さんは言います。専門職集団で構成されるゆえに、「病院は風通しがよくない」と。先ほどの「トランス・ディシプリナリーの組織」の話にもリンクしますが、そこを改善し、思いつきやばかばかしい発言であっても気軽にできる「心理的安全性の高い組織」へと変えていくことを構想しているのです。

地域社会に対しても、訪問診療やアウトリーチ活動を積極的に行っていきたい、と白波瀬さん。その際にカギとなるのが、新たな活動を提案していくことではなく、既に行われていることに意味付けをしてあげることです。

「てんでバラバラのように見える地域の活動に対して、『健康という観点からいえば、こんな役割を果たしていますよ』と整理し、意味付けをしていきたいんです。僕が健康に関する新しい活動をはじめるのではなく、現場の方々が既に実践していることに健康の意味を見つけ出し、『もうやっているじゃないですか、すごいじゃないですか』と伝えるのが僕の仕事なのではないかと」

そうして意味付けをしていく際、病院が持っている「信頼」が役立ちます。「健康な『場』づくりは、病院からはじめるけど、病院に限定する必要はない。最終的には、人が生活するすべての場所を健康な『場』にするのが目標」と言います。一方で、健康に関しては病院が発信力をもっているし、医師の言葉には高い信頼性があることもまた事実です。すべての場所を健康な『場』にするのに、この発信力や信頼性を利用しないという手はありません。病院の信頼を活かして、さまざまな活動にお墨付きを与えていくことが有効だ、と白波瀬さんは言います。

コツは「新しいものをつくろうとしないこと」

インタビューも終わりに差し掛かったタイミング。ここまででお話しいただいた白波瀬さんの活動内容や構想を踏まえ、健康デザインセンターのような取り組みに読者の方々がそれぞれの現場でトライしていくうえで、大切なことは何かを聞きました。

「健康デザインセンターのような機能は気づいていないだけで、それぞれの病院にあると思うんです。それを見つけて、新しい枠組みにまとめていくのがよいと思います。コツは新しいものをつくろうとしないこと。多くの病院が、医療以外にも多くの社会的貢献をしているはずなんです。例えば、最近は病院にカフェがあったりしますよね。これも健康デザイン的な考え方ですし、病院の外の人が足を運ぶ接点になりますよね。東京都済生会中央病院にも中にコンビニがありますが、患者さんだけが使うわけではなく、通勤する人が朝ごはんを買うのに使ったりもしています。そういう施設を持っているだけでも、健康デザインのコンセプトで捉えられると思うのです」

そうして、あらゆる病院に健康デザインセンターのような機能を見つけていった先に、白波瀬さんが見据えているのは「健康と病気の境目を薄くしていくこと」です。

「『病気も含み込んだ健康観』というものが生まれるといいなと思います。今の社会では健康と不健康、生と死、それらが過剰に切り分けられていると思うので、もう一度くっつける。『健康に生きているということの中に、病院を利用するも当たり前に含まれる』、そんな健康観をつくれるとすごくいいなと思っています」

病院は、不健康な人の心身の機能を治療する場所──わたしたちの間に根強く残っているこの考え方は、前編でも触れた通り、日本においてはここ150年ほどの歴史しかありません。決して、古今東西において定かなものではないのです。

そうした病院の“当たり前”を解体し、健康な人も含めてあらゆる人々のよりよい生活に寄与する、「健康デザイン」の場所を実現しようとしている白波瀬さん。彼の言葉にあるように、多くの病院では既にそれぞれの「健康デザイン」が行われているはず。まずはそれを見つけるところから、新しい病院の形を考えてみませんか?

Text by Masaki Koike / Edit by Kotaro Okada

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