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コト2022.11.22

日本医療マネジメント学会 第20回九州・山口連合大会 ランチョンセミナー病院のアートコーディネーターの役割と医療環境づくりの展望

11月初旬。20回目となる九州・山口支部の医療マネジメント学会では、 (特非)チア・アート理事長を務める岩田先生を講師に迎え、病院のアートコーディネーターがもたらす価値について意見交換を行いました。 

欧米諸国では、治療の周辺的サポートを行う職種として、アートマネージャー / コーディネーターが位置付けられています。日本においても、2010年頃よりアートの専門職が導入される医療機関がみられるようになりましたが、認知度は低く、限られた医療機関での導入に留まっています。岩田祐佳梨先生は、筑波大学附属病院と筑波メディカルセンター病院における「アートコーディネーター」という立場で、医療者と作り手をつなぎ、医療環境の質の向上を目指したアート活動のマネジメントをされています。機能性や合理性だけでなく、人間としての尊厳が守られ、生きる力を引き出すような医療環境を、一体どのように実現されているのでしょうか。筑波メディカルセンター病院の事例をお話してくださいました。

アートやデザインで医療や福祉の現場を応援(チア)したい、という気持ちを込めて名付けられた「NPO法人チア・アート」― 代表を務める岩田先生は、家具や空間づくりを通じて療養環境の改善をしたり、環境を支援するようなツールを、ステークホルダーと協働で開発してきました。

今から15年前、筑波大学の芸術分野の学生たちが初めて院内でアート活動を実施した時には、職員の方々は批判的で無関心、どこか冷めた反応を抱いていたそうです。しかし、検査室前の殺風景な廊下に鳥の形をした発泡スチロールを天井からつるしてみると、ストレッチャーで運ばれてくる患者さんの表情に変化があったり(目を見開いたリ)、ご家族からも好意的で、活動の継続を切望する投書が届くようになりました。

このプロジェクトによって、職員の方々の機運は段々と変化していきます。「病院は、医療者の視点だけではなく、患者さんやご家族の視点に立って環境づくりを行った方が良いのではないか」と。批判・無関心は「好意的傍観」に変わり、やがてその傍観が能動性を帯びる頃、アート活動は「協働ステージ」へ立っていました。

2011年、岩田先生は筑波メディカルセンター病院の「アートデザインコーディネーター」に就任しました。アートデザインコーディネーターとは、病院職員の方々と作り手(学生やアーティスト)、地域や社会までもをつなぐ通訳者(インタープリター)として、患者さんも含めながら、継続的に病院の環境を改善する職種です。日本にはまだ、片手で数え切れるほどの施設にしか、コーディネーターは配置されていません。先生ご自身の活動も、家族控え室や核医学検査室など、一つ一つは小規模な空間でも、それが沢山集まって、病院の中を耕すように(環境改善に)取り組んできた、と話します。

コーディネーターが目指すのは、病院の機能的な環境は維持しつつも、「どうしたら人間としての尊厳が守られる環境が作られるのだろうか」を問い、具現化すること。どちらかだけではなく、両方(医術と尊厳)が上手く融合し、折り合いのついた空間でなくてなりません。まさにここに、アートやデザインの役割である、と岩田先生は考えます。

2012年から実施された『つつまれサロン』は、家族用控え室を改修し、曲面の壁や木製のベンチによる柔らかい雰囲気のなかで落ちついて過ごせる多目的な空間をデザインしたプロジェクト。職員の方々がアイディアを出し、建築系の学生たちが絵を描く「妄想ワークショップ」では、3日間で80枚ほどのワークシートが描かれたのでした。(患者さんに強く当たってしまった職員が贖罪する「懺悔部屋」など、ユニークな妄想も!)完成してみると、面会に積極的に利用されるようになったり、病棟のリハビリスタッフが「ここで(リハビリを)やりましょう」と、患者さんをお連れしたり。1日あたり平均6名だった利用者は12名になっていたそうです。

一般的に病院内の諸室は非常に機能的で、名前ごとに目的が分かれているもの。一方の『つつまれサロン』は「使いたいから使う」場所であり、人々の活動や行動変容を促すような仕掛けになった、と強調します。アートコーディネーターは、潜在的に眠る課題に光を当てること、あるいは関わる人にとって学びの機会になるよう、プロセス自体をデザインすることにも存在価値を発揮するようです。

理想の病院(づくり)とは何か?

最後に、HCD-HUB定番の問いかけ「理想の病院(づくり)とは何か?」について、岩田先生のお考えを聞いてみると ――

 “理想の病院というのは、病院の環境づくりを、忙しい医療者だけが担わない病院だと思います。地域の色々な財源や資源も活用しながら、みんなで育てていく病院づくりが理想的ではないでしょうか。今までは「医療者の視点で、医療者だけが何とかできないかな」と考えていたところを、多様な人の知恵を借りることで解決されていく。もちろんそこには非常に高いハードルも、力量もあり、時間もかかるでしょうが、その先に見えるものがあるはずです。”

無関心を好意的傍観に変え、傍観を参画に変える ――

10年以上の年月を丁寧にかけ、結果を出しながら徐々に共感者の輪を広げてきた岩田先生の、これまでの確信とこれからの挑戦へ、私もまた、共感するその一人です。

アンケートからも、「病院のアートに対する考え方が変わった」「空間デザインの力を素直に理解できた」「医療スタッフ、患者様とも話しながらミーティングに取り組みたい」…等々、前向きなコメントを沢山頂きました。

HCD-HUBでは引き続き、Human Centered Designの視点で「理想の病院(づくり)」を問い、活動を通じてその答え合わせをして参ります。MAGAZINE記事の更新も、ぜひお楽しみに!

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