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コト2023.02.21

株式会社セントラルユニ 協力イベントレポ 「幻肢痛チャリティー トーク&ライブ」“幻肢が痛い”を乗り越える — 当事者研究の可能性

幻肢痛とよばれる痛みがあること、その痛みによって苦しんでいる人がいることを、より多くの方に知ってもらいたい ―— そんな思いから、幻肢痛チャリティーイベントが開催されました。2月11日にmashup studioで開催された様子を、イベントレポートとしてお届けします。

病気や事故で四肢を切断、もしくは神経を損傷して感覚を失ったにもかかわらず、以前と変わらず存在するかのように感じる手足を「幻肢」といいます。幻肢の位置や長さなど、感じ方は人によってさまざまです。この現象を経験している方の多くが、幻肢が激しく強く痛む「幻肢痛」に悩まされており、日常生活(ADL)や生活の質(QOL)が大きく低下している場合も少なくありません。難治性で治療薬のない幻肢痛は、痛みの緩和や機序の解明が急がれています。

第1部のトークセッションは「幻肢痛緩和への取り組みについて」というテーマで、主催者である株式会社KIDS 代表 猪俣さんがご登壇されました。「幻肢痛に悩む人同士のコミュニティをつくりたい」という思いで設立された幻肢痛交流会の取組や、ご自身の幻肢痛の体験談、当事者として研究開発を進めている「痛みを緩和するVRシステム」の開発経緯についてお話されました。

印象的だったのは「手がないことよりも、痛みが障害になっている」という言葉。幻肢痛の痛みは人によってさまざまで、猪俣さんご自身は幻肢の手の血管に砂利が入っているような鋭い痛みに、長い間苦しんだといいます。そして、痛みがある間は他のことが考えられず、明日やこれからのことを考える余裕はなかったそうです。

ご自身の経験から、猪俣さんはこう語ります。「幻肢痛に苦しむ人は、痛みが緩和してようやく未来のことが考えられるようになる。VR訓練によって痛みが緩和された患者さんの中には、70歳で再度免許をとって奥さんをドライブに連れて行きたいと志している人もいる。それこそがゴールで、それを一緒に達成したい。」

痛みは主観的であり、当事者にしか分からないもの。だからこそ、当事者自身が「つくり手」となって痛みを緩和するVRシステム開発や、訓練を継続できる環境づくりに精力的に取り組まれている猪俣さんの熱い想いが伝わってくる、素敵な講演でした。

第1部「幻肢痛緩和への取り組みについて」にてスピーカーを務めた猪俣一則氏。株式会社KIDS 代表、NPO法人Mission ARM Japan 副理事長 等を兼任する。自身も上肢障害の幻肢痛当事者。

当事者パネルディスカッションでは、東京工業大学科学 技術創成研究院 未来の人類研究センター長を務める伊藤亜紗さんをモデレータにお招きし、6名の当事者に幻肢痛の痛みやVR訓練の効果について語っていただきました。

当事者が語る幻肢の状態や幻肢痛の感じ方はさまざまで、腕をハンマーで叩かれるような痛みや、ペンチで足の指の先を潰されるような痛み、中には気絶するほどの痛みと20年以上闘ってきたという方もいらっしゃいました。そんな痛みが、猪俣さんが開発されたVR訓練システムを使い始めてから緩和されたと言うのです。痛みの和らぎ方や訓練効果も人によって異なり、常に100㎏近い重りがついているように感じる腕が瞬時に軽くなったという方や、障害がある腕の可動範囲が広がったという方、訓練を重ねることで、幻肢に触覚を感じるようになったという方も。幻肢痛に苦しむ人にとって、痛みを緩和するVR訓練システムがいかに画期的なツールなのか、私たちはその体験談から理解することができました。

会場の大きなホワイドボードを用いてグラフィックレコーディング

第2部では、視覚障害を持つフルーティスト綱川 泰典さん、ピアニスト酒井 亮さんによるライブコンサートが行われました。お二人が奏でる音楽はとても繊細で優しい音色で、その世界観に引き込まれ、約1時間のコンサートはあっという間に過ぎていきました。

写真 右:綱川さん 写真 左:酒井さん

このイベントに関わらせてもらい、当事者自身が「つくり手」となる猪俣さんの取組は、まさに私たちセントラルユニがブランドコンセプトとして掲げる「つかう人を、つくる人に」の目指す姿であると感じました。

どれだけ当事者意識を持とうと努力しても、メーカーである私たちには限界があり、医療スタッフと全く同じ目線には立つことはできません。だからこそ、医療スタッフを巻き込み、当事者にしか分からないことを環境づくりに反映させていく。これが「理想の環境づくり」になると、今回のイベントを通じて確信しました。同時に、医療環境というフィールドを出た先で、患者さまがどんな風に過ごしているのかを知ることは「医療環境のつくり手」として、大切な視点になると感じました。これからも、患者さまが安心して治療を受け、元気に社会復帰ができるよう、医療環境づくりに寄与して参ります。

※ こちらのイベントレポートは株式会社セントラルユニ 公式noteの記事を引用して作成しております。

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