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コト2024.02.22

医療デザインサミット2023 特別講演Empowering Well-being through Design Innovation

医療福祉の環境づくりに欠かせないEvidence-Based Design(以下EBDという)は、経営者の意思決定を後押しすると共に、根拠に裏付けされた良質な空間や家具によって、実際に患者のアウトカムが向上し、コスト削減にもつながるといいます。EBDの実践から得たナレッヂは、国境を越えた重要なソースとなり得ます。そこで、11月16日に開催された医療デザインサミット2023では、当法人との共同企画の基、アメリカ合衆国からRosalyn CAMA氏を講演者に招待し、EBDの理解を深めました。

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Rosalyn氏はアメリカ合衆国出身のインテリア・デザイナーとして、これまで、アメリカインテリアデザイナー協会(ASID)の第24代会長、ヘルスケア・スペシャリティ・ネットワーク協会議長、The Center for Health Design名誉理事長を務めてきました。輝かしいキャリアの中に、ASIDデザイナー・オブ・ディスティンクション賞(2012年)、ニューヨーク・スクール・オブ・インテリアデザインから名誉美術博士号(2014年)等々、数多くの賞を受賞しています。The Center for Health DesignのCEOであるDebra氏と共に医療福祉建築分野の研究を発展させた氏は、その価値を最大限に引き上げた功労者と呼ぶに相応しい人物です。Rosalyn氏はおよそ40年の間、「いかに環境や家具のデザインが人間の感情に影響を与えるか」を考え、検証する活動に尽力してきました。

彼女が実践するデザインプロセスにおいて、最初に重要視されることがストーリー・テリングです。ただ単に「必要なものは何ですか?」と尋ねても、壊れている机や椅子としか答えは返ってきません。それでは、古い什器を新しく交換するだけ。Rosalyn氏は、施設を利用する医師や看護師、いつか患者となり得る地域の人々、慢性的な病気と向き合う人々と一緒に座り、彼らがどんな体験を望んでいるのか想像してもらい、物語を語ってもらうのです。その後、語り手の一人ひとりに「なぜ?」と深く問いかけ、体験(コト)から紐解き、製品(モノ)に答えを導きます。

一方、院経営者へコンセプトを伝えることは容易ではないため、この時もストーリーの力を借ります。医療現場の具体的なストーリーの中で提案する製品がどのように役に立つのか、分かりやすく伝えます。「痛みをコントロールする」など特定の成果が求められていれば、それを解決する製品の必要性を、先行研究のエビデンスを用いて説明します。

Rosalyn CAMA:www.camainc.com

優れたデザイナーは、コストと価値観のバランスを考えてコミュニケーションをとるもので、Rosalyn氏らが病院からデザインを依頼される時は製品イメージを四象限に表して意思決定を促します。横軸は「ナレッヂ」(右)と「イノベーション」(左)を表しています。「どのくらい革新的なデザインにしたいか?」と尋ねると、最初こそ「世界で一番患者のためになる病院にしたい」と言うのですが、議論が進むうち、結局はコストが意思決定に影響を与えます。そこで今度は、縦軸を見て、「信念・価値観」(上)と「コスト」(下)のバランスを確かめていきます。コストが重視される場合は、既存の製品に変更を加えながら患者ニーズを満たす「トランザクショナル・デザイン」(下)に寄せ、患者ニーズを超えた経験を提供する際には、「トランスフォーメーショナル・デザイン」(上)に寄せます。

Rosalyn CAMA:www.camainc.com

Rosalyn氏らが企画・開発し、米国の家具メーカーIOAに製造を依頼した椅子も、四象限の図式を用いて形作られていきました。病院にいる患者と家族からヒアリングを行う中で、「母親と子供にとって手をつなぐことが、なぜ大事なのか」を問いかけて作られたそうです。一般的な病室の椅子は高さが低く、ベッドから離れた位置に置かれるケースが多く見られましたが、この椅子は、母親と子供が同じ目線の高さで手を繋いでコミュニケーションが取れるように設計されています。医者も同じ目線で話すことができるため、患者である子どもは寂しさを感じずに済むのです。

IOA Cama Bed Chair:www.ioa-hcf.com/products/recliners/cama/

トークセッションを終えて

エビデンスに裏付けられたストーリーの力は侮れない。コンセプトの方向性を検討する中で医療施設の“譲れないポイント”が明確になり、従来的な基準や規格、指針などに盲目的に従う設計から脱することができるかもしれません。Rosalyn氏らが40年の歳月をかけて築いてきた活動に学び、本邦の医療福祉デザインに改めて向き合いたい—— こう、感化されたのでした。

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