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モノ2023.09.13

無機質な診察室の体験を変えるには?泌尿器科外来で試みるエモーショナルデザイン

外来診察室は、白く、無機質である。——

泌尿器科の坂本Dr.は、無機質な診察室にヒーリング音楽をかけることで、少しでも患者のストレスが軽減できないかと試みていました。しかし、それだけでは十分な解決につながらず、試行錯誤の日々。そんな中、東京都医工連携HUB機構を介して坂本Dr.と面談を行ったHCD-HUBは、患者をリラックスさせ、円滑な診療を可能にする診察室の環境を検討すべく、ワークショップを企画しました。

対象 泌尿器科外来患者及び同伴者

期間 2022年4月~2023年8月(COVID-19の影響もあり一時的に活動を中止した期間も含まれます。)

取組 千葉大学医学部附属病院 泌尿器科、メドテックリンクセンター

PROCESS

01.ヒアリング・オブザベーション調査

2022年4月某日、まずは外来環境の現状課題について3名のDr.へヒアリングを実施しました。すると、「外来の待ち時間は長いと2時間以上かかることが多い」「待ち時間が長く診察室に入った段階でイライラしている患者もいる」「子どもは面談室に入りたがらない」「携帯メール呼び出しサービスを導入しているが、高齢の患者も多いため、あまり活用できていない」… などの発言がありました。

さらに、泌尿器科の外来待合を観察してみると、「待合スペースは限られており、感染症対策のため座る場所も制限されている」「診察番号が表示されるモニターが見にくい場所もある」「待合で子どもが泣いている」「子ども連れの患者さん(母親)が周りに気を遣っている」「待っている間、若年層の患者さんはスマホを見ているが、ご高齢の患者さんはモニターを見ている」 …といった状況が明らかになりました。

一方の診察室は、長い待ち時間を経てやっと診察が受けられる安心感と「どんなことを言われるのか」という不安が同居した、(患者にとって)特殊な環境であることが分かりました。緊張感が漂う診察環境では、個々の医師判断により、ヒーリング音楽や映像を流したり、アロマを焚いて配慮するほか、「単純に症状と治療方針を伝えるだけでなく、個々の患者の状況を可能な限り理解し、伝え方には十分配慮する」といった、コミュニケーションの配慮もなされていました。

抽出された課題から、待ち時間の(直接的な)解消や、待ち時間に提供されうる癒しの仕掛けを通じて、最終的には「この病院で診察・治療を受けてよかった、安心して医療を受けることができた」と患者に感じてもらうことを、ワークショップの最終ゴールを定めました。

ワークショップの最終ゴール

02.「なぜ?」を考えるワークショップ

現状把握の後は、さっそく解決策を考えていきます。まずは「なぜ~(な状況になっている)か」を考え、それに対して「どうすれば~(解決できる)か」を言語化し、参加したDr. メンバーの課題認識を合わせていきました。そして、複数の中から最も良いと思われる「問い」に投票しました。

「なぜ~か?」については、「なぜ、限られた場所で多くの人が待っているのか?」「なぜ、診察室は緊張するのか?」「なぜ、子どもが面談室に入りたがらないのか?」の3つの問いが立てられました。

それぞれの問いの理由を分解していくと、「どうすれば~か?」には、「どうすれば、待合スペースを広く感じるか?」「どうすれば、一人で待つことができるか?」「どうすれば、医者が怖いと感じないか?」「どうすれば、緊張と安心感を両立した場にできるか?」「どうすれば、子どもが診察室に興味をもつか?」の5つの問いが導き出されました。

2つのグループは、それぞれ「なぜ~か?」と「どうすれば~か?」を付箋に書き表す。
2つのグループは、それぞれ「なぜ~か?」と「どうすれば~か?」を付箋に書き表す。

03.アイディアを可視化するワークショップ

得票数の多かった問いに対してアイデアを出す個別ワークを行いました。その際に用いたアイデアボードには、〈タイトル〉〈アイデアの説明〉〈このアイデアで患者さん/ご家族はどうなるか〉〈必要なモノ・設備など〉を言語し記入。イメージが伝わるように、イラストも描いて説明しました。

参加者が描いたアイデアボード。
描いたイメージを説明する。ユニークな着眼点が多く、互いにシゲキになる一幕。

04.アイディアを形に;実現に向けた院内リソースの確認

アイデアボードに表現されたイメージから、成果物の方向性を検討すると、「患者さんをリラックスさせ円滑な診療を可能にする診察室環境が欲しい」だった当初の目的は、「泌尿器科外来において、患者さんが院内での待ち時間を有効的かつ楽しく安心して過ごせる仕掛けを考案する」に再定義されていることが分かりました。

目的が再定義されたことで、具体的な成果品イメージも具体性が増し、今回のワークショップでは「呼び出しシステム」「Dr. 紹介コンテンツ」「楽しめる動画コンテンツ」の3つが挙がりました。最後には、アイデアボードで描かれたイメージに類似したもの、参考になりそうな事例をリサーチ。その上で、優先順位、院内で活用できる資源の確認などを行いました。

おわりに

今回の企画では、患者や家族を取り巻く環境を、現場のDr.と共に問いただす作業を行いました。研究レベルでは、ストレス度を数値的に可視化し、環境改善に取り組まれるケースもありますが、「感情への配慮」は効果が測りづらく、導入費用を算出できずにいるケースも垣間見られるもの。しかし、「考えるよりやってみる」の姿勢も大事。今回のレポートが、院内で患者中心の環境づくりを推進する手がかりになれば幸いです。

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