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コト2022.12.01

“遊園地のようなクリニック”が実現する、「病院」に閉じ込められない医療のかたち。ファミリハつくば院長・中川将吾さんインタビュー

「病院」と「テーマパーク」。一見すると全く結びつきそうもない両者の性質を兼ね備えた、ユニークな施設があります。

「メディカルテーマパーク」をコンセプトに掲げる「つくば公園前ファミリークリニック」(以下、ファミリハつくば)です。「BE PLAYFUL!」をテーマにデザインされた、こどもと大人が一緒に体を動かし、遊ぶことが健康につながる小児整形外科クリニック。一体どんな場所なのでしょうか? 

その全容を明らかにするため、編集部はファミリハつくばを訪問。前編ではその空間を紹介しつつ、「病院」に閉じ込められないこれからの医療のあり方を模索する、院長の中川将吾さんへのインタビューをお届けします。

待ち時間があっても、お金がかかっても行きたくなる「メディカルテーマパーク」

つくば市の中心、研究学園駅から車で約5分あまり。駅前の大型モールが目立つ街並みとは一転、すっかり木々や田畑に囲まれたエリアに、ファミリハつくばはあります。

まるで隠れ家レストランかのような、黒が基調の落ち着いた家屋のドアを開けると、病院とは思えないような楽しげな空間が広がっていました。

1階にある、ボールプールの上に寝転んで本が読めるスペース。写真右奥の小さなくぼみの中は、大人は屈まないと入れない、子どもたちだけの「階段下秘密基地」
2階にのぼるとまず目に入るのが、本格的なボルダリング。周りにはトレーニング機器も置かれています
同じく2階にある「巧技台」。さまざまな組み合わせで使用でき、子どもたちの動く意欲をかき立てます

このユニークな空間のコンセプトは「メディカルテーマパーク」。気軽に行けない、待ち時間がある、お金がかかる……病院が抱える課題を解決するため、中川さんはこのコンセプトを考案したと言います。

「待ち時間があってお金がかかっても、テーマパークなら行きたくなるじゃないですか。普段は『歩いたら疲れる』と不満を言う人も、あちこち歩き回りますし。やる気を引き出して楽しい体験ができるということは、とても大事だと思うんです」

とりわけ驚かされるのは、一見すると子ども向けとは思えないような、本格的なトレーニング機器がたくさん置かれている点。

ボルダリングと同様、子どもたちは喜んで使っているとのこと。こうした機器を子どもに自由に使ってもらうことには当然、危険も伴います。しかし、その危険性をしっかりと認識することこそが、子どもにとって必要なのではないかと中川さんは言います。

「危ないということは、経験しないとわからないと思うんです。興味を示した子がいたら、『一緒に持ってみようか』とその重たさを実感してもらい、落ちたらどうなるか想像してもらう。そうした作業が絶対に必要で、その経験からしか学べない身体の動かし方が絶対にあるはずです。

逆に大人がそういうことをしっかりと教えずに、『危ないから』と何もかも遠ざけていると、ある日突然大怪我をしてしまう。将来のことを考えずにそうした機会を奪ってしまうのは、広い意味でネグレクトのようなものだとすら思っています」

従来の病院の枠を超えて、遊びながらさまざまな経験を積めるテーマパークにしたい──そのコンセプトは患者さんのみならず、地域住民の方々にも浸透しています。

2022年5月に開催されたオープニング記念パーティーには、のべ500名超が来場。病院内外をふんだんに活用し、キッチンカーの出店からマグロの解体ショーまで盛りだくさんの、地域のお祭りさながらのイベントになりました。

今後もハロウィンイベントや子ども食堂などを構想しており、新興住宅地ゆえに地域のつながりが希薄なつくば市の、地域コミュニティのハブを目指すと言います。

「子ども中心」のクリニックだからこそ生まれる経営効率

従来の「病院」の枠を超えて、遊び心満載の空間ができあがっているファミリハつくば。この見たこともないような空間が成り立っている背景には、実は緻密に設計された戦略がありました。

特筆すべきは、病院経営の観点。

地域の人々の遊び場として定着したとしても、ただ遊びに来てもらうだけでは、クリニック側の売り上げには直接的に結びつきません。しかし、ファミリハつくばではこの少子高齢化の時代には珍しく、子どもを中心に診療することで、実際に診療する患者の数が少なくても病院経営が成り立つ仕組みを実現していると言います。

「一般的なクリニックは、患者のほとんどは高齢者で、子どもの割合は1割にも満たないことも少なくありません。しかし、ファミリハつくばでは、患者の約6割が中学生以下。そして子どもは痛みが心配で来院しても、一時的なケガであったり、ただの成長痛で時間が経てば痛みが引いてしまったりと、すぐに治ってしまうケースが多いんです。つまり、子どもは初診だけで終わることが多い。

通常のクリニック経営の場合、『いかに継続的に通ってくれる患者さんを増やすのか』に注力すると思うのですが、結果としてうちの外来は初診の割合がすごく高くなっているんです。初診時の診療費は再診時の3〜4倍かかるので、患者さんの絶対数が少なくても病院経営としては成り立ちやすいですし、子どもならではの診療報酬の加算も多い。子ども中心にすることで、なるべく初診の割合を増やして人数を減らすという方針を採った結果、経営効率も良くなっているんです」

「子ども中心」の戦略に従って、立地も子どもが多い地域を選定。さらには「ファミリークリニック」というコンセプトも、患者のきょうだいや親も併せて診療するかたちを見越して考案したものだと言います。

ファミリハつくばを訪れるのは、地域の子どもたちだけではありません。遠方からわざわざ訪れる患者も珍しくなく、お隣の千葉県はもちろん、神奈川県から訪れる患者もいたと言います。

「子どもの整形というニッチな領域で、ヘルメット治療など東京の大学病院などでないと受けられない特殊な治療も実施しているので、遠方から来ていただく方も多いです。見つけていただきやすいように、病名や治療法でのSEO対策もしっかり手を打っているのも効いているのだと思います。

遠方から来ていただくとき、『テーマパーク』というコンセプトだとお子さんを連れて来やすいようで。病院だと思っていない子もけっこういて、『遊びに行くよ』と言って連れてくる、みたいな(笑)」

病院の中での手術・リハビリが中心、小児整形医療が抱える課題

ユニークでありながら、背景には確固たる戦略をもつ中川さんは、一体いかにしてここに辿り着いたのでしょうか?

学生時代は陸上競技に熱中し、「陸上部が強いから」という理由で筑波大学を選んだという中川さん。医学部入学当初から、整形外科医志望だったそう。小児科志望の友人の話を聞く中で小児医療にも興味を持ち、「走りたくても走れない子どもたちを救いたい」との想いで、小児整形の道を選びました。

以降、十数年さまざまな場所で小児整形医療に携わる中で、その現状に対する問題意識を抱くようになります。

「まずアクセスの悪さ。小児整形を診ている医療機関は都道府県に1〜2件あるかないかくらいで、とにかく行きづらくて予約も取りづらい。仕方なく一般の整形外科で診ることになり、あまり効果が出ないこともあったりします。

それから小児整形は結局、手術がメインである整形外科の一部なので、どうしても手術やリハビリ、装具メインの医療になってしまう。『手術するくらいになったらまた来ましょうね』と、悪くなるのを待つような医療になってしまったり、本当は根気よく動きを練習すれば事足りるはずなのに、装具をすぐにつけさせたり。病院経営上の問題も背景にはありますが、そんな小児整形医療のあり方に課題を感じていたんです」

さらには、日常生活と乖離した病院という空間でしか医療を行えないことにも限界を感じていたそう。リハビリ処方を出したとしても、病院に来る時間がなかなか取れなかったり、セラピストの予約が取れなかったりで、十分にリハビリの時間が取れずに良くならない……そんなもどかしさを感じることも多かったと言います。

こうした小児整形医療の課題を解決するため、勤務医をやめて開業したのが、「遊ぶことが健康につながるクリニック」であるファミリハつくばです。従来の医療の枠組みにとらわれず問題に向き合っていきたいという想いは、中川さんが自らの肩書きにしている「Social Good dr.」という言葉にも込められています。

「医療というとても大切で役に立つ資源が、病院の中だけに閉じ込められてしまい、十分に社会に活かされていない。病院に行かないとその恩恵を受けられないのはおかしい、もっと社会に還元していくべきだと僕は考えています。わざわざ予約を取ったりせずとも、もっと一般の方々に近い存在、気軽に話しかけてもらえる存在になりたいと思って、この肩書きを名乗っているんです。

病院という隔離された場所で行われる対症療法は、やはり後手に回ってしまいがち。そもそも切って痛めつけるような手術をしないと治らないなんて、おかしいじゃないですか。悪くなる前に対処して手術まで進ませないためにも、自然なかたちで、いわば健康教育をもっと広げていきたいんです」

「医者はいるけど、病院じゃない」場所を目指して

2022年5月の開業から半年弱。子どもたちは予想を超えた空間の使い方をしてくれていて、毎日が驚きの連続だと言います。

しかし、中川さんの思い描く「テーマパーク」のかたちにはまだ程遠いようです。今後はまずクリニックの隣に、障がい児保育園を併設する予定とのこと。

「生まれつきの障がいがあって思うように動けない子でも、それ以外は元気で、ご飯をたくさん食べて、十分に勉強やコミュニケーションもできる。全然病気には見えないのに、わざわざ病院に来なきゃいけなかったり、親御さんがつきっきりで見てあげないと何もできなかったりするのは、おかしいと思うんです。

だから、医療者やセラピストがいて、遊びの中でいろいろなリハビリを考えて一緒に取り組める、障がい児向けの保育園を作りたい。そうすれば親御さんも安心して預けられて、ご自身のために時間を使えるようになるはずです。むしろもともとはそういう保育園を作りたくて、そのための準備として、まずは安心感を持ってもらうためにクリニックを作ったんです」

そして、中川さんの構想は保育園にとどまりません。もっと周囲の自然を活かして遊べる場所を作ったり、農業や狩猟を体験できる食育の場を作ったり……限られた動きしかしないスポーツではなく、子どもが自由な発想で身体を使いたいように動かせる場所にしていきたいと言います。

「医者はいるけど、病院じゃない。多くの病院を、そんな境目がよくわからないような場所にしていきたいんです。遊んでいると、知らない間に受付、診察、処方がなされていて、それで終わり……そんな流れが実現できるといいなと思っています。

保育園にせよテーマパークにせよ、医療と社会の境目が曖昧になって、病院に行かずとも勝手に治ってしまう状態を作るのが最終目標です。究極的には、いまの病院のような場所はなくてもいいと考えているんです」

前編記事では、「メディカルテーマパーク」をコンセプトに掲げるファミリハつくばの実践を辿りながら、これからの医療のあり方を考えました。後編記事では、このクリニックづくりにデザイナーとして携わった日本医療デザインセンター・桑畑健さんも交え、これからの医療に求められる「創意工夫」のかたちを探ります。

Text by Masaki Koike, Edit by Kotaro Okada

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