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モノ2024.04.18

mctデザイン思考事例 vol.04 Patient Journeyの作成プロセスと活用方法 — 患者さんの経験を可視化し、医療現場で有効活用するために —

連載4回目にあたる本記事では、ペイシェント・ジャーニーの作成方法と活用方法、重要性について考えます。

ペイシェント・ジャーニ(Patient Journey)とは、患者さんが医療サービスを受けることで経験するあらゆる接点のプロセスを指します。患者さんが抱く感情、思考や行動を理解し、患者中心のよりよい医療を推進するために重要とされています。

今回は、寛解したAYA世代のがん患者さんの経験をヒアリングし、患者モデルであるペルソナとペイシェント・ジャーニーを作成。がん患者さんに関わりのある3名の医療関係者の方々とセッションすることで、患者体験への理解を深める試みをしました。

ペイシェント・ジャーニーの作成プロセスとポイント

まずはAYA世代のがん患者さんにインタビューを実施。発話録をジャーニー化しました。ジャーニーは、発病する前から現在に至るまでの全ての経験にフォーカスします。疾患に関することだけではなく、患者さんのライフイベントを記述することが重要です。また、それぞれのタイミングで「どういう気持ちになるのか」を書き出し、それらを線で繋ぐことで、ペインポイントとなった事柄やモチベーションを上げる要素を理解することが可能です。

セッション対象者のプロフィール

ベテラン看護師

がんセンターで15年の看護経験があり、その後、保健センターで11年間、がん検診に関わる。現在は個人病院で働いている。

新人看護師

今年1年目の新人看護師。自身ではまだ、希少性の高い疾患や患者さんと対峙する準備ができていないと不安を感じている。

ソーシャルワーカー

約20年医療ソーシャルワーカーをしており、がん相談支援センターで多くのAYA世代のがん患者さんや家族等からの相談を受けている。

モデルとなる患者像 “ペルソナ” を決める

ペルソナとは、商品やサービスを利用している典型的なユーザー像のことを意味します。年齢や性別などのセグメントだけではなく、趣味・志向なども細分まで設定することで、ペルソナのインサイトを発見することにつなげます。

25歳の大学院生の男性。急性骨髄性白血病に罹患し3年前に入院。抗がん剤治療を経て、現在は寛解をしている。

ジャーニーマップを用いてペルソナの想いを可視化する

ジャーニーマップとは、ペルソナが商品やサービスを経験するあらゆる接点とステップを可視化したもの。その中でペルソナが抱いくポジティブな気持ちとネガティブな気持ちを書き出し、感情曲線にすることで、ペルソナの思いも可視化します。ペイシャント・ジャーニーとは、患者さんが医療行為を受ける際のジャーニー(経験)マップになります。

20XX年4月、40度以上の発熱が続き4日後、トイレで倒れて救急車で自宅近くの市立病院に運ばれた。新型コロナ禍だったため隔離部屋で入院。コロナは陰性だったが熱が下がった後も好中球の数値が回復しなかった。骨髄穿刺の検査を実施したところ、血液中にがん細胞のようなものが見られたため、大学病院で再検査を実施。「限りなく白血病に近い」との診断を受け、「寛解導入療法」(抗がん剤治療)をスタートすることに。最初は「奇跡的に生かされた」というふうに感じた。9月に造血幹細胞移植を受けて白血病は寛解するも、1年後に合併症(特発性大腿骨頭壊死症)を発症。手術を受け、現在は体調が落ち着いている。

患者さんのネガティブな経験

  • 診断を受けた際に、インフォームドコンセントの説明書きに最悪のパターンについて記載があり、無駄にドキドキしてしまった。
  • 入院中、抗がん剤の副作用がひどくて、点滴のカートが近づいてくるコロコロという音を聞くだけで吐き気がするようになった。
  • 入院時は、年齢の近い人が周りにおらず、孤独を感じた。
  • 休学して治療を行う必要があったため、学業が遅れてしまうという焦りがあった。
  • 通院時は、待ち時間が長いのに診察時間が短いと感じた。

患者さんのポジティブな経験

  • 年の近い、白血病の経験のある看護師さんと話ができるのが唯一の癒しだった。
  • 退院後も定期的に病棟の医療従事者と話をする機会があり、嬉しかった。

■ 改善点に関するセッション

セッションでは、ジャーニーに記載されていることだけではなく、参加者の経験をベースに語り合い、ジャーニーをブラッシュアップしていきました。

意見交換の中で出たキーワードを付箋を書き、ペイシェント・ジャーニーマップの上に貼りながらブラッシュアップした。

★発症する前〜診断に至る時点

Kさんは、割とスムーズに受診する病院が決まったと思います。異変を感じた時、何科を受診して、どんな治療をすればいいのかを選択するのは難しい。気軽に相談できる窓口があったらいいと思います。

コロナ禍で、白血病の患者さんの心配事として真っ先に上がるのは感染症です。通学するにしても、感染することが不安で、学業に専念できなくなってしまう。Kさんは自ら大学側とやりとりして、なんとか乗り越えられたようですが、病気や治療に伴う生活全般について相談できるソーシャルワーカーがいたら、もっと安心できたのでは?と思います。相談できるソーシャルワーカーのいる「がん相談支援センター」の認知度が低く、窓口として知られていないことが課題です。

また、がん相談支援センターには、「医師の説明がわからない」や、「説明をしてくれないから病院を変えたい」という相談があります。患者さんと医師とのコミュニケーションがしっかりできるよう、診察時の家族同席の可能か、医師へ質問できるように箇条書きに整理したメモを準備したり等の具体的な助言等を行い、安心して治療が望める環境調整のサポートを行うこともソーシャルワーカーができることの一つなのでぜひ相談してもらえたらと思います。

発症する前〜診断に至る時点の考察

発症する前〜診断に至るまでのフェーズでは、医療従事者のサポートがあるにもかかわらず、患者さんに届いていないという課題があると思われる。

★入院期間中

看護師さんとのコミュニケーションがKさんのモチベーションに繋がったというのは、とてもうれしく思います。病気と闘う意欲を持ってもらうためには、人とのコミュニケーションが重要であると改めて感じました。治療をすれば助かる患者さんでも、立ち向かう意欲を失っている人が多い中で、いかに応援してあげられるかが課題です。看護師として何ができるのかを考えさせられます。

設備については、防音設備が必要だと感じました。自分の具合が悪かったらと考えたら、人の話し声さえ聞きたくない時があると思います。カートを動かす際のコロコロ音が聞こえないようになど、音に対する配慮をできたらよいなと思いました。

もちろん治療を目的に入院していますが、患者さんのQOLの話で言うと、治療以外の部分においても生きる力へ繋がる環境も大事だと思います。例えばアート展示やコンサート等癒しの空間を病院にも積極的に取り入れるべきだと思います。

Kさんのような年代の方だと、Wi-Fi環境はきっと必須なのではと思います。情報を受けるだけではなく、発信をするにもWi-Fi環境は重要です。Wi-Fi環境があれば、勉強や仕事など自分の成長や誰かのためになる活動ができ、入院中のQOLを上げることにもなると思います。

【入院期間中の考察】

入院中は、人とのコミュニケーションがモチベーションにつながる。一人でいる時間の過ごし方については、静かな落ち着ける環境が求められる一方、Wi-Fi環境が整っていることや、エンターテイメントがあることでQOLの向上につながると考えられる。

★退院後

外来では待ち時間が長い一方、診察時間が短いことから、なかなか医師に状況や思いを伝えきれないという患者さんのジレンマがありました。入院病棟の医療従事者が退院後に外来で通院される患者さんに対応するのは難しいのですが、入院時と外来時、ぞれぞれの医療従事者で情報を共有できる仕組みをつくれるとよいと思います。

入院前も後も、入院病棟と外来の医療従事者のコミュニケーションは難しいと感じています。外来でどんな検査をしたのかはカルテを見ればわかりますが、限られた時間の中で詳細まで記載するのは容易ではありません。病棟も同じように、よほどの特例ではない限り、一人の患者さんのためだけにカンファレンスを開くことは難しい。外来と病棟、両方の橋渡しの役割をできるスタッフがいてくれたら、患者さんにとってもっとよいケアが提供できるのではないでしょうか。

がん患者さんは寛解したとしても、再発の不安がつきまといます。不安を払拭するための選択肢にがんサロンもありますが、勉強したい人、交流したい人など、サロンに参加する目的が様々なので、適切なサロン選びが必要だと思います。年代についても参加者に高齢者が多いのか、AYA世代が多いのか、集まる患者さんもサロンによって異なります。患者さんが安心できるために、サロンの特徴や選び方についてアドバイスができたらと感じました。Kさんの場合、25歳で今後は恋愛とか、結婚、出産という人生のターニングポイントで、再発の不安を感じるかもしれません。寛解した後に自分ががんだったことを言うべきかにも悩むのではないでしょうか。悩んだら、抱え込まないで、がん相談支援センターや通院している病院に気軽に相談できるようになると良いと思います。また、AYA世代が集まるサロンやコミュニティ等に参加して不安を吐き出せる場や生活のヒントをもらえる環境に繋がるといいですね。自分がレジリエンスの環境にいることに気づくとその人が本当に強くなる。ペイシェント・ジャーニーは自分のレジリエンスを知ることにつながるのではないでしょうか。レジリエンスというその人の持っている強さが、不安軽減に活かせるのではないかと思います。

すごくポジティブに考えられるときと、ネガティブに考えてしまうときが私自身もあるので、患者さんの疾患への不安は今後も続くものだと思います。医療のシームレスな連携があることで、患者さんをトータルにサポートできるといいなと思います。

【退院後の考察】

入院病棟(入院時)と外来(入院前・入院後)の医療従事者による、患者さんに対するシームレスな連携を強化することで患者さんの不安払拭や満足につなげられると思われる。連携だけはなく、患者さんのレジリエンスの視点も不安払拭に活かせる。

■ ワークショップを振り返って

感情にフォーカスを当てて、客観的に患者さんの経験を見る機会がなかったので、ペイシェント・ジャーニーで「見える化」できたのが良かったと思います。患者さんがネガティブからポジティブに行動できた要因を客観的に見られることで、議論や振り返りができるいいシートだなと勉強になりました。ネガティブな経験だけではなくポジティブな経験も可視化することで、患者さんが自分を丸ごと肯定することが大事だと思いました。ネガティブになっている患者さんに対して、その人の持っている強さを引き出して、未来に向かっていく道筋を考えられるツールにできるのではないでしょうか。

慢性的人手不足を解決すれば、患者さんに向き合う時間はできるんだろうと感じています。業務に追われて患者さんと話をする時間がないのが一番の課題だと思いました。

ペイシェント・ジャーニーを作ることで、再発したときに、患者さん自身がレジリエンスのきっかけにできると思いました。壁にぶつかった時に患者さん自身の足で立ち上がるための力や次のアクションを起こす力につなげたり、再発したときの手がかりになるだろうなと思いました。

【ワークショップ振り返りの考察】

感情曲線を使ったペイシェント・ジャーニーを基に医療現場の様々な職種の方が意見を出し合うことで、お互いの目線を合わせ、患者さんのQOL向上のために連携することにつながった。また、ジャーニーのシートは困難をしなやかに乗り越え回復する力である「レジリエンス」の気づきにもつながった。

今回のワークショップを通じて、患者経験を客観的に見る機会の重要性を、医療関係者の方々に改めて認識していただくことができました。また、参加者はペイシェント・ジャーニーを通じて患者さんが振り返り、未来に向かうレジリエンスな力をつけることができると感じられたようです。

こちらの取り組みを参考に、ぜひ医療現場の課題改善にペイシェント・ジャーニーマップを検討してみてはいかがでしょうか?

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